ヨモギとは

 

 ヨモギ(キク科多年草)は本州から九州に至るまで広く分布し、夏までに1メートル成長、秋に多数の花をつけます。

 ヨモギの葉裏についている白い毛が艾です。ちなみにオオヨモギは北海道から近畿地方に自生し、ヨモギよりも大きい葉をつけます。

 

 艾は乾燥させるために燃えやすいのですが、炎が上がらないために燃焼温度が高くなりません。昔は火打ち石から火をとる火口(ほくち)に使用されたり、中国では艾(ヨモギ)を身に付けたり家の門にかけて厄除けに使うなど、人々の生活に根付いた植物でした。現在は工場で製造される艾が一般的ですが、昭和初期の農村部では自家用艾を作っている家庭も多かったそうです。

 

 

 

灸療の歴史

 

 

 中国秦時代(BC778BC206)の湖北省の竹簡に既に記載があり、日本列島へは朝鮮半島を経由して562年に呉の知総が医書をもたらしたのが伝来の初めと

言われています。

 伝来当初は舶来艾を使用していましたが、平安時代(延喜 901923)に入って国産化されました。

 

 平安時代当時、役職に「鍼博士」がありましたが、灸療が主体であり、その恩恵は主に貴族が受けていました。鎌倉時代に入って武家や庶民にも普及し、室町時代~桃山時代に盛んになり、江戸時代(元禄)は灸療の隆盛期となりました。『徒然草』『奥の細道』などの文献でも灸療が紹介され、広く養生としての灸療が受け継がれて行きました。

 

 太平洋戦争に入ると艾は軍需品となり、艾工場も軍の管理下に置かれ、艾が何に使用されたかは正確にわかっていません。上級艾は爆弾の導火や防毒マスクの吸着剤に、粗悪艾は防寒用やクッション材の代わりなどに使用されたのではないかと言われています。

 

 なお、英語で艾を意味する「MOXA」は1603年に長崎で印刷された『日葡辞書』に初めて紹介されました。この言葉は「もぐさ」が起源なのです。

 

 ヘルマン宣教師が自身の痛風に悩まされ、灸療によって効果があったため、その記録を出版したところ、欧州では一種のお灸ブームになったと言われています。明治期にドイツから招聘されたベルツ医師は、ハンセン病の湯治と平行して灸療が行われていることを紹介しています。

 

産地の変遷

 

 

 江戸時代前期は現在の岐阜県・福井県、後期は福井県での生産が盛んでした。

 明治初め頃は富山県が日本一の生産地となりましが、昭和初期からは葉が大きく質のよい新潟県のヨモギが主流となり、現在は高級艾の100%近くを新潟県で生産しています。

 

艾の作り方

現在、乾燥ヨモギの仕入れ・加工・小売り販売まで一貫して行っている主要な艾販売会社は、滋賀県に本社のある山正さんとなっています。ここでは山正さんの艾作りの過程を紹介しています。

 

①原草採集と集荷

 ヨモギ(オオヨモギなど)を5月頃~7月頃までに刈り取り、葉をむしって2~4日程天日乾燥したものを仕入れます。その後、艾工場にて12月頃まで乾燥ヨモギを保管し、熟成させます(本枯れ)。 

 この時点でヨモギの水分量は10%ほどになります。保管中、乾燥ヨモギの内部が温かくなるそうで、この熟成の期間はかかせないとのことです。

②火力乾燥

 湿気のない乾燥した冬場が製造に向いているため、艾製造は12月頃~3月頃の寒い時期に行います。

 保管していた乾燥ヨモギを、80℃~120℃の温度で含水1~2%になるまで乾燥させます。

 昔は薪を使った火力乾燥でしたが、現在はニオイのつかないガスを熱源にして熱風乾燥させています。乾燥状態は工場の職員さんが触った感覚で把握しています。

 火力乾燥したものを放置しているとすぐに湿気を吸ってしまうため、この工程が終了したら、すぐに石臼にかけます。

 

③荒砕き・粉砕

 石臼に乾燥ヨモギを投入し、乾燥ヨモギを粉砕していきます。

 山正さんでは3台の石臼があり(機械運転)、1番臼(真ん中の写真奥)と3番臼(真ん中の写真手前)では、石臼に刻まれている溝の数が違います。知熱灸や温灸などに使う粗悪艾は1番臼だけで引きが終わることもありますが、灸頭鍼用や点灸用などの上級艾は3番臼まで引いていきます。1番臼より3番臼は石臼の溝の数が少なくなり、より、すり潰す面が大きくなっています。

 

 粉砕の終了した乾燥ヨモギは密閉容器に入れて一晩寝かせます。これは燃えやすい艾の火災を防ぐためです。

※山に自生しているヨモギを採集するため、不純物(金属など)が混入し、石臼で摩擦熱が発生してしまう事があります。この場合、石臼で引いた直後に長どおしや唐箕にかけてしまうと、木材で作られているためにあっという間に燃え広がってしまいます。その為に、密閉容器で一晩落ち着かせて火災を防ぐのです。

 

 石臼は固くで重みのある糸魚川市早川上流の噴火石を使用しています。

 石臼を引き続けるとすり合わせる面の石の溝が平らになってきますが、その場合は工場の職員さんで新しく溝を彫るとのことです。


 

 

 

 

 

 

④長どおしにかけて篩う(ふるう)

 

 一晩寝かせた粉砕乾燥ヨモギを、不要部分(葉肉・葉脈・葉柄など)と艾成分(繊維)とに篩いにかけていきます。

 この機械は中の篩いに竹を使用しています。

 長どおしの機械の下部には不要成分がたまる場所があります。写真ではわかりにくいのですが、黒っぽい粉塵がびっしりと付着していました。


⑤精製

 

 艾を唐箕で精製し、更に不純物を落としていきます。知熱灸用の粗悪艾は長どおしで終了することもありますが、灸頭鍼用の艾や点灸用艾は精製を繰り返して純度を上げていきます。

 

左写真は一見、上級艾のようにみえますが、唐箕で精製する過程で出た不純物です。触ってみると非常に軽くてフワフワしているため、点灸用艾としても使用できそうです。

この不純物は、様々な等級の艾をブレンドする際のつなぎのために混ぜたりするそうです。

 

 山に自生しているヨモギを使用しているため、毎年同じ品質のヨモギを仕入れる事は難しく、そのために、様々なグレードの艾をブレンドして製品化しています。

 工場の職員さんが培ってきた手触りとみた目、秘伝の配合量により、毎年同じ品質の艾が提供できているのだそうです。

 

 

 

 

←唐箕の中は竹で作られています。唐箕は温灸用と点灸用で分けて使用し、雑物が入らないようにしています。

 燃焼温度が低いと燃え尽きた際に灰が黒くなりますが、粗悪艾のようにより高温で燃え尽きるとグレーに近い色になります。

 直接灸用の最高級艾の収穫率は乾燥ヨモギの33.5%、一方粗悪艾は1520%以上収穫可能です。


 

今回ご紹介した山正さんのもぐさ工場は見学可能です。周辺にはせんねん灸の工場・亀屋佐京さんの店舗もありますので、お近くにお越しの際はお立ち寄りください。現地見学者特典として、山正の看板を手に持って記念撮影が出来ます(左写真)。

 

株式会社 山正

〒526-0244 滋賀県長浜市内保町238-8
TEL. 0749-74-0330 ㈹ FAX. 0749-74-0466

お問合せはこちら

現在営業中の艾大手メーカー

 

釜屋もぐさ           03‐3667‐3551

ウチダ和漢薬          03‐3241‐4241

亀屋佐京            0749‐57‐0022

山正              0749‐74‐0330

せんねん灸           0120‐78‐1009

佐藤竹右衛門商店(見学可能)  025‐537‐2523

 

 

 

一応艾になる植物

ゴボウ

江戸時代には葉を艾の原料に使用していましたが、品質は非常に悪いようです

 

エビズル(ヤマブドウの仲間)

葉裏に線毛が密生していてブドウモグサとも言われます。

イボに施灸してイボオトシという異名も持ちます。

ワレモコウ

バラ科で根から艾のようなものが取れます。

燃焼温度は高めのようです。

 

 

様々な灸

 

 

有痕灸:直接皮膚に艾を付着させて燃焼し、火傷を起こさせて自然治癒力を引き出す灸法。

 

①透熱灸

 

上級艾を捻って半米粒大程の艾しゅを皮膚に立てて燃やしきる灸法。

 

②焼灼灸(焦灼灸)

 

粗悪艾を固く捻り、ウオノメやタコ、角質化した部位を焼き切り細胞組織を破壊して炭化や壊死を起こさせる。

 

③打膿灸

 

大きい艾しゅや切り艾を用いて皮膚を焦灼・破壊して、施灸部に膏薬を貼って化膿させる灸法。江戸時代~戦後の一時期までは家伝灸としても行われていた。

 

 

 

無痕灸

 

①八分灸

 

半米粒大もしくは米粒大の艾しゅを皮膚にのせて燃焼させ、8割方燃焼したところで取り去る。

 

②知熱灸

 

小指大の粗悪艾を皮膚にのせて火をつけ、患者が熱感を感じたら取り去る。

 

③隔物灸

 

にんにく灸(アリシンの鎮痛効果)

 

しょうが灸(自律神経の調整)

 

びわの葉灸(抗ガン作用)

 

みそ灸

 

塩灸

 

ガーゼ灸

 

和紙灸

→濡らした和紙を皮膚に置いてその上から米粒大の艾しゅを置いて施灸する(小児等)

 

④薬物灸(墨灸)

 

墨に薬効成分の材料を混ぜて作り、その墨をツボに大きめに点をつける。その上から点灸をすることもある。水灸 うるし灸 紅灸 天灸

 

⑤台座灸

 

カマヤミニ せんねん灸 長生灸

 

⑥棒灸

 

中国棒灸 ネパール棒灸(押灸)

 

⑦灸頭針

 

⑧箱灸

 

現代科学からみた施灸の治効

 

 

 皮膚表面に熱が加わることでヒートショックプロテインが発現し、細胞を修復するためにタンパク質を分解したり再生する動きが活発になります。白血球数が増加して免疫力が向上し、赤血球が増加することで細胞活動が活性化したり身体回復力もアップします。

 抗炎症作用や抗アレルギー作用などの他、近年ではアンチエイジングとしても注目されています。

 

                    参考文献:

                    『もぐさのはなし』織田隆三著 森ノ宮医療学園出版部

                    『皮膚と艾の間にあるもの』東郷俊宏 医道の日本2009年3月号

                    取材:

                     株式会社 山正