艾の産地の変遷

 

艾の製造は江戸時代前期は現在の岐阜県・福井県、後期は福井県での生産が盛んでした。

 

明治初め頃は富山県が日本一の生産地となりましが、昭和初期からは葉が大きく質のよい新潟県のヨモギが主流となり、現在は高級艾の100%近くを新潟県(佐藤竹右衛門商店・ひすい農協・小竹もぐさ)で生産しています。

 

点灸用艾はほぼ100%近くを国産ヨモギ(主に上越地方に自生するヨモギ)で製造し、輸入ヨモギは粗艾として温灸用に製造されています(新潟・佐藤竹右衛門商店)。土があれば大量に自生するため、国内では採算性の問題からヨモギの栽培はしていないとの事ですが、中国では近年、国策として灸療法の研究や需要が高まり、ブランド化されて栽培されているヨモギもあるそうです。

 

艾は乾燥させるために燃えやすいのですが、炎が上がらないために燃焼温度が高くなりません。昔は火打ち石から火をとる火口(ほくち)に使用されたり、中国では艾(ヨモギ)を身に付けたり家の門にかけて厄除けに使うなど、人々の生活に根付いた植物でした。

 

現在は工場で製造される艾が一般的ですが、昭和初期の農村部では自家用艾を作っている家庭も多かったそうです。

 

 

 

艾の製造法

 

艾の製造は以下の手順で行われます。

 

1.原草採集・天日乾燥

ヨモギ・オオヨモギを春~初夏にかけて収穫し、天日乾燥する。

 

2.集荷・熟成

天日乾燥した乾燥よもぎを業者や農協が集荷して工場に送り、俵や大きな袋に詰めて冬まで保存しておく

 

3.火力乾燥

乾燥よもぎを裁断して乾燥室に入れ、水分量が1-2%になるまで徹底的に乾燥させる

 

4.粉砕

回転する石臼で1-3回乾燥よもぎを繰り返して挽き、もぐさになる部分(綿毛)と不要部分(葉肉・葉脈・葉柄等)を分離する

 

5.篩う(ふるう)

粉砕した乾燥よもぎを篩って不要部分を落とす

篩いにはもぐさ(綿毛)が残る

 

6.精製(点灸用もぐさ)

篩いに残ったもぐさを唐箕にかけて更に微細な不純物を取り除いていく

 

 

1.原草採集・天日乾燥

2.集荷・熟成

よもぎ(オオヨモギなど)を5月頃~7月頃までに刈り取り、葉をむしって2~4日程天日乾燥したものを仕入れます。その後、艾工場にて12月頃まで乾燥ヨモギを保管し、熟成させます(本枯れ)。

点灸用艾製造シェアトップの新潟県・佐藤竹右衛門商店さんによると、点灸用艾は上越エリアで収穫されたよもぎを使用し、点灸用艾に限っては国産よもぎしか使わないそうです。輸入よもぎは間接灸用艾に加工するとの事。輸入よもぎは輸送の過程で若干発酵し、風味が変わるそうです。

この時点でよもぎの水分量は10-15%ほどになります。保管中、乾燥よもぎの内部が温かくなるそうで、この熟成の期間はかかせません。

 


 

3.火力乾燥

湿気のない乾燥した冬場が製造に向いているため、艾製造は11月下旬~3月頃の寒い時期に行いますが、この頃の湿度や気温が、その年の艾の出来に影響します。暖冬になるとよもぎが乾燥しにくく、手触りに違いが出てくるそうです。

 

半年以上乾燥させたよもぎは、裁断機で細かくしてから火力乾燥させます。裁断する際は強力な磁石を使い、よもぎに紛れている金属を取り除きます。金属片を取り除かないまま火力乾燥機にかけると、摩擦で火花が散って火災の元となります。特に艾工場では火気厳禁。あっという間にボヤになるため細心に注意を払います。

 

 乾燥機では80℃~120℃の温度で含水1~2%になるまでよもぎを乾燥させます。

昔は薪を使った火力乾燥でしたが、現在はニオイのつかないガスを熱源にして熱風乾燥させています。乾燥状態は工場の職員さんが触った感覚で把握しています。

 


 

4.粉砕

石臼に乾燥よもぎを投入し、粉砕していきます。

山正さんでは3台の石臼があり(機械運転)、一番臼(真ん中の写真奥)と三番臼(真ん中の写真手前)では、石臼に刻まれている溝の数が違います。知熱灸や温灸などに使う粗悪艾は一番臼だけで引きが終わることもありますが、灸頭鍼用や点灸用などの上級艾は三番臼まで引いていきます。一番臼より三番臼は石臼の溝の数が少なくなり、よりすり潰す面が大きくなっています。

 

山正さんの工場では、石臼での粉砕の終了した乾燥ヨモギは密閉容器に入れて一晩寝かせます。これは燃えやすい艾の火災を防ぐためです。

山に自生しているよもぎを採集するため、不純物(金属など)が混入し、石臼で摩擦熱が発生してしまう事があります。この場合、石臼で引いた直後に長どおしや唐箕にかけてしまうと、木材で作られているためにあっという間に燃え広がってしまいます。その為に、密閉容器で一晩落ち着かせて火災を防ぐのです。

 

石臼は固くで重みのある糸魚川市早川上流の噴火石を使用しています。

石臼を引き続けるとすり合わせる面の石の溝が平らになってきますが、その場合は工場の職員さんで新しく溝を彫るとのことです。


 

5.篩う(ふるう)

 

 石臼にかけた乾燥よもぎを、不要部分(葉肉・葉脈・葉柄など)と艾成分(繊維)とに篩いにかけていきます。

この機械は中の篩いに竹を使用しています。

長どおしの機械の下部には不要成分がたまる場所があります。写真ではわかりにくいのですが、黒っぽい粉塵がびっしりと付着しています。

 


6.精製

 

艾を唐箕で精製し、更に不純物を落としていきます。知熱灸用の粗悪艾は長どおしで終了することもありますが、灸頭鍼用の艾や点灸用艾は精製を繰り返して純度を上げていきます。

 

艾は自生地や加工時期の気候によって毎年品質が微妙に変わりますが、山正さんでは製品の品質を均等にするために、工場の職人さんが培ってきた手触りとみた目、秘伝の配合量により、毎年同じ品質の艾が提供できているのだそうです。

 

 

左写真は一見、上級艾のようにみえますが、唐箕で精製する過程で出た不純物です(トンコ)。触ってみると非常に軽くてフワフワしているため、点灸用艾としても使用できそうです。

この不純物は、様々な等級の艾をブレンドする際のつなぎのために混ぜたりするそうです。

  

 

 

 

←唐箕の中は竹で作られています。唐箕は温灸用と点灸用で分けて使用し、雑物が入らないようにしています。

 燃焼温度が低いと燃え尽きた際に灰が黒くなりますが、粗悪艾のようにより高温で燃え尽きるとグレーに近い色になります。

 直接灸用の最高級艾の収穫率は乾燥ヨモギの33.5%、一方粗悪艾は1520%以上収穫可能です。


 

臼で挽く回数や唐箕や長どおしにかける回数等で様々な用途に沿った艾を製造します。下の画像は艾製造販売業者の「山正」さんをお招きして開催した講座にて頂いたものです。一覧で見ると色や質感の違いが一目瞭然です。

 

ふわりと火が消えて燃焼温度もさほど高くない艾は透熱灸用に、唐箕にかけないで目の粗い艾は燃焼度が高く、じんわりと熱を浸透させる箱灸や隔物灸に使用します。

 

現在営業中の艾大手メーカー

 

釜屋もぐさ     03‐3667‐3551

ウチダ和漢薬    03‐3241‐4241

亀屋佐京商店    0749‐57‐0022

山正        0749‐74‐0330

せんねん灸     0120‐78‐1009

佐藤竹右衛門商店(見学可能)

          025‐537‐2523

 

参考文献:

『もぐさのはなし』織田隆三著 森ノ宮医療学園出版部

『皮膚と艾の間にあるもの』東郷俊宏 医道の日本2009年3月号

 取材:株式会社 山正

    佐藤竹右衛門商店